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呼び止められて、 振り返るとそこには ……ワタシがいた。 な、なにこれ… 全身が見ているものを拒否している。 毛が逆立ち、 内臓が喉元に殺到した。 この格好…おぼえてる。 当時の人気女優をマネた、 似合わないショートボブ。 肌映りの悪い、 青緑のオフタートルセーター。 ようやく買った、 有名ブランドの一番安いエコバッグ。 高校生のワタシが、 目の前にいる。 連休最終日の電車は、 人影もまばらで、 誰も私たちに気がつかない。 車体だけが恐怖に怯えて、 軋んだ音を立てながら、 暗闇を疾走している。 「コロシタデショ?」 高校生のワタシが、言う。 ひっ… 喉がひきつった。 「コロシタコロシタ、アンタガコロシタ、コロシタコロシタ、アンタガコロシタ」 その口調に頭と胃がよじれる。 ヤメテの声が出ない。 それに…… 鼻に手をやった。 臭い。 脂じみたものを燃やすような臭いがする。 思わず窓に手を伸ばした。 ガラス窓に映っている、 背後のワタシ。 だけど、 その顔はぽっかりと風穴が空いていた。 そして、私が… 私が映っていない… 「返してーっっっ!!」 叫びながら、ガラス窓に爪を立てた。 「コロシタコロシタ、アンタガコロシタ、コロシタコロシタ、アンタガコロシタ」 喉に胃液が伝わる。 染みるように痛い。 電車がカーブに突っ込み、 大きく傾いた。 床に転がる。 臭い。 吐き気が止まらない。 電車が疲れたように速度を落とし、急に止まった。 乱暴に扉が開く。 転げるように、表へ出た。 えづきながら、冷々した夜気を吸い込む。 一緒に降りた乗客が、 私を避けて乗り換え口への階段を登って行く。 鉄の柱に掴まり、立ち上がった。 「飲みすぎじゃん?」 「マジかんべん」 階段の上から、声が聞こえる。 涙目で顔を上げた。 遠ざかる電車の中、 あの青緑が顔に穴を開けたまま、 こちらを向いていた。 【完】
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