1‐1 バンド

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 あのとき、 たまたま降り立った田舎の汽車のホームで見かけたきみには後光が射していて、 それを見てぼくは瞬間に運命を感じて、 でもその場を去ったのは、 偶然でなければまた会えると思ったからで、 偶然でなければまた会えるのは必然だと信じたからで、 やがて本来の用事を済ませて都心のアパートに戻ったぼくは、 そういえば、 いなくなってしまった存在の大きさと形を心に深く浅く感じながら、 でも泣くのは嫌だったので大声で、 あはは、 あはは、 あはは、 と笑うと、 そのぼくの声がとても朗らかだったのがきっと気にいらなかったのだろう、 ぼくに嫉妬した隣の住民が薄いアパートぼくの側の壁をドンドン・ドンと叩いてぼくを脅し、 苛つかせ、 責め苛んで、 だけどぼくはそれをわずかに怖れながらも、 必然なんだ、 だってそれは必然なんだから、 と呟くのを止められなったのは、 隣の住人(男)――括弧・おとこ――もそれを知っているから嫉妬するんだ、 とわかっていたからで、 でもそれから数日間は何も起こらなかったのだけど、 でもぼくは焦らずに待って、 待って、 待って、 ああ、 そうだよ、 待てばいいんだ、 ただ待てばいいんだから、 と思い続けながらただ待って、 何故って、
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