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暫らくすると、階段を上る音が聞こえ、部屋の扉をノックする音が響いた。
返事もせずにいると、扉が少し開き、廊下からの明かりが暗い部屋に差し込んできた。勉強机の上に皿が置かれる音がした。
「お腹が空いたら食べなさい。就職してから見る度に痩せていくから心配なのよ。食べれるのだったら、少しは食べなさい」
そう言うとお母さんは静かに部屋の扉を閉めた。
お母さんが私を心配して、おにぎりとお茶のペットボトルを置いていった。
あえてシバケンの話をしないお母さんの優しさは嬉しかったけれど、食欲は湧かなかった。
おにぎりに背を向けるようにして、寝返りを打った。
「千秋はさ、大事なこと忘れてるんだよ!」
突然、耳元でシバケンの声がした。
「大事なことって何?」
私は訊き返す。
「大事なことって大事なことだよ。俺はずっと覚えてる」
それじゃあ答えになってないよ。
大事なことって何なの?繰り返し訊ねたけれど、もうシバケンの声は返って来なかった。
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