美形×平凡

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あの時を思い返すと、俺は馬鹿だった。 なぜ俺はアイツの名前を呼ぼうと思ったんだ。 「ねぇ、直人くん。俺の名前呼んでよ」 「…無理、です」 こいつ、尾崎 南朋(おさき なお)は完全に俺をからかっている。 数時間前、担任に美化委員のやつに「職員室に来い」と伝えておいてくれ、と頼まれた。 美化委員が誰か確認するため、俺はクラスの委員が書いてある紙を見た。 そして俺は落胆した。 …漢字が、読めない…。 美化委員の欄には、尾崎南朋・山口ゆきと書いてあった。 その日山口さんはちょうど休みであり、もう1人の方のみに選択肢が絞られた。 自慢ではないが俺は漢字が不得意だ。 頼みの綱である友人はタイミングが悪く、クラブのミーティングでいなかったり、トイレに行っていたりしてその場にいなかった。 「なんでこんなに難しい漢字なんだよ…」 尾崎の方はまず、「おさき」と読むのか「おざき」と読むのか悩む。 南朋の方は選択肢すら浮かばない。なんだこれは。 しかもこの名前は学年一のイケメンともてはやされている男子の名前だ。 廊下に貼られたクラス発表の紙を指差して女子が騒いでいた。 そいつとは関わりがないため、名前を覚えていない。(今はまだクラス替えをして1カ月も経っていないからだ) 最終的に、「おさき」か「おざき」、一か八かの勝負に出た。 そして見事に間違っている方を答えたのだ。二択なのに。 そしてそいつの取り巻きに笑われ、今はそのややこしい名前をしたイケメンに纏わり付かれている。 「直人くんっておれのことまったく知らなかったの?結構有名だと思ってたんだけど」 「あんまし他のクラスの人とか興味なかったし…」 「おさき なお、だから。覚えといてね」 無言でこくり、と頷き、去っていく尾崎くんの背中を見ながら俺はまた数時間前を思い返していた。 他のやつに頼めばよかったんじゃないか…とか今更考えたってしょうがない。 つーか、尾崎くんは俺の名前覚えてたんだ。もうクラスの人の名前を覚えてるとか、すごいな。 感心して、俺はその場を去った。 ********* 「直人くんの真っ赤な顔、可愛かったな~」 俺がクラスの人に笑われた時の顔を思い出しながら尾崎くんがにやけていた事を、俺が知ることはない。
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