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「ご存知でしたらいいのですが……個人的には、現行機種でも機能的には十分だと思いますし……」
「はい」
「失礼ですが、学生さんでいらっしゃいますよね」
「大学一年生です」
「それなら、とりあえず今回の機種変更は見合わせてはいかがかと。正直な所、大きなモデルチェンジが行われた機種に関しては、少し様子を見てからにした方が良いと思いますし」
暗に新モデルにはそう珍しくない不具合のことを示しながら、宰は続ける。
「それにこの機種は充電器も今までのものは使えませんし、追加メディアも入りません。今までお使いの携帯と異なり、防水防塵でもないしテレビも見られません。OSが新しすぎるため、アプリに関してもまだまだ非対応が多いだろうと言う話ですし、そもそも液晶が割れやすいと言う噂が……」
もし別のスタッフが近くにいたなら、場合によっては接客を下ろされていたかもしれない。それも売上げと契約台数を伸ばすことばかりに躍起になっている上司でもいたなら尚更だろう。
それでも宰は、まるで機種変更を諦めさせようとでもするかのように、言わなくてもいいようなことまで細かく説明していった。
いつしか優駿は黙り込んでいた。顔付きは依然として緊張感に欠けるものの、宰をじっと見詰める眼差しを見るに、何やら感じる所はあったらしい。
ややして、様子の変化に気付いた宰が資料から顔を上げた。
「小泉さん?」
ばち、と思いがけず絡んだ視線は射るように真っ直ぐで、その澄んだ虹彩に宰は内心少し怯む。
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