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優駿が借りていた部屋は、俗に言うロイヤルスイートルーム級の貴賓室だった。調度品といい、窓から望める景色といい、他の客室と違って部屋数も多く、専用露天風呂まで完備されているという、プライベートで泊まりに来ていたとしても、一介のサラリーマンである宰にはまず縁がないだろう空間だ。
半ば無意識に窓際へと歩き、窓外の景色をじっと眺める。時折、どこからか風に乗ってピンク色の花びらが舞い落ちてくるのが見えた。山の中に、遅咲きの桜でも咲いているのかもしれない。
宰は小さく息を吐いた。
(これが……こいつにとっては普通、なんだよな)
いつも自分が見ている景色とはあまりにかけ離れていて、ここは夢の中なのではないかと錯覚しそうになる。けれども、優駿にしてみればこれも大したことではないのだろう。
そう思うと、またしても現実を突きつけられた感じがして、ひどく居た堪れない気分になった。
「あの、話って……」
言葉をなくして佇む宰に、おずおずと声がかけられる。横目に視線だけ転じると、思ったよりも近い位置に優駿が立っていた。
「………」
話がある――。そう言ったのは自分なのに、いざその時になると、何から話していいか判断に迷う。
何度か口を開きかけ、そのたび言葉を飲み込んで、とにかく冷静になろうと努力する。
そうして最初に口にしたのは、
「お前、今回のこと、なんで黙ってた」
「あ……すみません。その、俺も今日、本当に来られるかどうかギリギリまで分からなくて……」
「ここがお前の親戚の経営してる旅館だってことは?」
「それは、店長さんが自分から伝えるからって」
(店長……)
と言うことは、やはり店長は意図的に伏せていたのだろうか。優駿にわざわざ口止めしてまで……?
にこにこと楽しそうに、旅館や優駿を紹介していた店長の姿を思い返し、宰は胡乱げに目を細めた。
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