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「……美鳥さん?」
急に黙り込んでしまったからか、窺うように名を呼ばれ、宰は瞬いて焦点を合わせた。軽く頭を振って気を取り直し、どうにか次の言葉を探し出す。
「えっと……じゃあ……」
「はい」
「旅館に着いたとき……、お前、どう言うつもりでああいうことを言った?」
いつのまにか外れていた視線を優駿に戻し、努めて平板な声で言う。
「ああいうこと……ですか?」
「わざわざお前の親戚……優子さんに言ったことだよ」
内容が内容なだけに、しつこく説明するのは気が進まなかったが、まるで何のことか分からないと首を傾げる優駿に、仕方なく言葉を継いた。
「俺のことを……何て言って紹介したか覚えてねぇのか」
「あ、大切な人ですって言ったことですか? ――そっか、説明足りてなかったですよね。もっとちゃんと、お付き合いしてる人だってはっきり……」
「違……っだから、そうじゃねぇだろ!」
気がつくと、宰は声を荒げていた。優駿から返ってきた答えは、驚くほど見当違いな答えだった。
信じられない。何て危なっかしいんだと本気で心配になる。
本当にコイツは、自分の立場が分かっているのだろうか。日本でも有数の資産家の家に育ち、いつかは自分もそれを背負って立つべき存在だと、そのことを本当に理解しているのだろうか。
考えれば考えるほど、背筋が冷えるような心地がする。
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