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「こいず――…、じゃなくて、優駿」
苗字で呼びかけ、二人きりなのを思い出し、名前に言い変える。見詰め返した優駿の瞳には、薄っすらと涙が滲んでいた。
「でもな、やっぱりお前は小泉の人間で……俺は男だし、そもそもお前はゲイじゃない。そんなお前が、いつまでもこちら側にいていいわけ――」
「嫌です」
だからと言って、やはり「はいそうですか」とすぐに折れることもできず、宰は宥めるように言う。
「……まぁ聞けよ」
「嫌です」
「いいから聞け。――なんだかんだ言って、遠くない将来、お前は結局小泉家(いえ)に戻らなきゃならないだろ。遠くない将来っていうか、早ければもう一年後だよな。大学、卒業すんだから。そうなった時、さすがに俺はついて行けねぇよ? 跡継ぎ強請られたって、子供が産めるわけじゃねぇし」
「嫌ですっ」
「……俺が本気で不本意だって言ってもか」
「嫌です!」
何を言っても、ひたすら首を横に振る優駿に、宰は呆れたように息をつく。
「だって、俺、やっぱり嫌です……美鳥さんと離れるなんて、考えたくない……。それくらいなら、家を捨てます」
優駿の目から、ぽろりと雫がこぼれて落ちた。乞うように紡がれた声にも涙が混じる。
「捨てるってお前……」
「捨てます!」
(いや……、んなこと、簡単に言うなよ)
宰の表情が僅かに引き攣る。だがそれを言っても無駄な気がして、ただ力無く首を横に振った。
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