528人が本棚に入れています
本棚に追加
「だめですよっ、お酒飲んだ後すぐお風呂なんて……!」
言われても聞く耳を持たず、宰は勝手に脱衣所に入り込み、早速浴衣の帯を解こうとしている。その肌は薄っすら上気して、眼差しも熱っぽく潤んでいた。
「こ、ここのお風呂は二十四時間いつでも入れるんだし、もう少し休んでからの方が――」
「うるせぇな。飲んだ飲んだって言われるほど飲んでねぇよ」
「飲んでますよ!」
一頻り泣いた優駿が落ち着くと、今度は宰が駄々をこねるように酒が飲みたいと言い出した。
結果はともかく、途中何だか負けたような気になったことを思い出した宰は、その憂さ晴らしのための酒を要求したのだ。
そうして数時間の内に宰が飲んだ量は、今まで優駿の前で飲んだことのある量を軽く超えていた。
外での酒を控えるようになってからも、優駿の前では普通に飲んでいたつもりの宰だ。けれども、さすがに過日のような酒癖の悪さが露呈するほど飲んだことはなかった。やはりどこかで幻滅されるのを恐れていたのかも知れない。
しかし、今夜はどうも様子が違う。
いつもの酔い方からすると明らかに奔放で、無防備で、目付きは完全に誘うようだし、とにかく危うい印象が拭えなくなっている。
「だいたい、お前があんな揺さぶるから酔いが回ったんだろ。最初はビール一杯しか飲んでなかったのに」
「そ、れは確かにそうかもしれませんけどっ……でも、問題はその後ですよ。自分がどれだけ飲んだか、分かってます? 美鳥さん、結局俺より飲んでるんですよ?」
「あーもう、ほんとごちゃごちゃうるせぇな」
部屋に用意されたのは、今まで口にしたこともないような高級な地酒とワインだった。口当たりが良いためか、確かに最近にしてはよく飲んだ方だとは思う。それでも、昔の宰からすればまだまだ飲み足りない量でもあった。
とは言え、宰はもう十分に酔っていた。
最初のコメントを投稿しよう!