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冷たいミネラルウォーターの入ったグラスを手に、寝室に戻った優駿は、布団の上でぐったりと横たわっている宰の傍に膝をつく。まるで意識が無いように閉ざされた双眸の上には、先刻取り替えたばかりの濡れタオルが乗せられていた。
「あの、宰さん。お水持って来ました」
畳が濡れないようにと一緒に持ってきたトレイにグラスを置いて、控えめに声をかけると、ややして宰の唇が小さく動いた。
「氷は……」
「入ってます」
優駿の返答に、片手で目元のタオルを掴む。重いまぶたをゆっくり持ち上げ、力の入らない腕で身体を支えながら、どうにか上体を起こしていく。それだけで着ている浴衣が乱れるのは、風呂から出た後の、優駿の着付けが悪かったせいだ。「大丈夫ですか」と、ふらつく宰の背中に、優駿がそっと手を添える。
「ん……」
差し出されたグラスを受け取り、からからに乾いた喉へと水を流し込む。砕かれた氷が共に奥へと滑り落ち、その心地よさにようやくほっと息をついた。
「すみません、俺……、気がついたら夢中になってて……」
宰が水を飲んだことに安心したのか、改めて頭を下げる優駿に、宰は呆れたように息を吐く。
「すみませんじゃねぇよ。お前は俺を殺す気か」
言葉のわりに、責める様子もなく答えると、優駿は「すみません」とますます恐縮そうに肩を窄めた。
「まぁ、今に始まったことじゃねぇけどな」
宰は苦笑気味に呟いて、空になったグラスと持ったままだったタオルを優駿に押し付けた。はっとしたように顔を上げた優駿が、受け取ったそれをそそくさとトレイに戻す。そんな優駿を横目に、宰はふたたび布団の上へと倒れこんだ。
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