527人が本棚に入れています
本棚に追加
平日の昼間が、暇であることには違いなかった。だがそれだけでなく、宰も薫も青年を言うほどぞんざいにも扱えない理由があった。
青年の名は小泉優駿(こいずみゆうしゅん)。彼は聞く所によると近所の大学に通う名門大学の二年生――であると同時に、その親族――要するに企業単位で――はこのサクラ電機の上得意であったのだ。
だからこれでも一応弁えているつもりで、
「学校は行かなくて大丈夫なんですか」
「今日の講義は午前中一コマだけなんです。俺、必要な単位はちゃんと取ってますよ。課題も全部提出してます。それでも割りと時間には余裕があって」
かと言ってファイルに視線を留めたまま、暗に帰れと告げるだけでは、優駿にはさっぱり通じない。それどころかはにかむような笑顔を返され、宰は内心げんなりする。
在籍している大学といい、きっちり単位は取得している点といい、勉強はできるようなのに、どうしてこう話が通じないのだろう。
「それならバイトでもしてみたらどうです。若いうちに色々経験しておくのはいいですよ。社会勉強にもなるし……多少なり小遣い稼ぎにもなるでしょう」
「そんなことしたら、美鳥さんに会えなくなるじゃないですか。それに俺、別にお金には困ってないし……」
――ああ、そうか。そうだった。まるで金に困ることを知らない金持ちのボンボンに、その心配は無用だった。
宰はもう何度し直したか知れない認識を繰り返し、そんな自分に溜息をつく。
同じカウンター内でパソコンの画面を見詰めていた薫が、その様を見て苦笑する。そして助け舟を出すように、優駿へと視線を転じた。
最初のコメントを投稿しよう!