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「小泉さん? そう言うセリフは人を選ぶわよ」
薫は口元に品のある笑みを湛えたまま、優駿を見詰めた。優駿はぱち、と瞬き、薫に向けて小さく首を傾げる。
「人を選ぶ?」
「ええ。好む人と、好まない人がいるってこと。そりゃ、好む人は喜ぶとは思うわよ。でも、好まない人はきっととことん嫌がるわね」
宰はファイルから少しだけ目を上げて、二人の様子を垣間見た。
「嫌がる……とことん……?」
呟いた優駿は瞬きも忘れているようだった。対して薫の方は相変わらず悠然としている。
「ちなみに言うと、私は後者よ」
「そ……そうなんですか」
束の間の微妙な空気に、宰は何だか嫌な予感を覚えた。
案の定、唐突に優駿は宰に向き直る。
「美鳥さんは? 美鳥さんはどっちですか?」
不意を突かれた形になり、宰は目を逸らす機会を逸した。
優駿の眼差しはきわめて一途だった。必死さが滲み出ているとでも言うのだろうか。がっちりと絡んでしまった視線はそう簡単には振り解けない。
(その瞳が苦手なんだよ)
純粋無垢とでも言えばいいのか、そこに湛えられた強すぎる光彩が宰には眩しい。
辛うじて瞳を眇めた宰は、努めて深い溜息をついた。そうして継いだ声は、必要以上に素気無いものにした。
「私も後者ですよ」
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