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優駿が初めて店に姿を見せたのは、一年ほど前の春のこと。ちょうど大学に入学する年で、新生活に向けた一人暮らし用の家電を揃える為の来店だった。
高校を卒業したばかりの優駿はまだどこかあどけなく、振り撒く笑顔はさながら人見知りを知らない子供のようだった。成長が遅かったのか、身長も百七十半ばの宰の方がまだまだ高いくらいで、
「機種変更したいんですけど」
なのにそれからたった二月で、その目線の位置は完全に逆転し、雰囲気までも一気に大人びてしまったその姿に、宰は内心唖然とした。
一方、そんな宰の胸中など知る由もない優駿は、
「昨日テレビで見たんですけど、夏モデルのこの新機種、すっごいカッコイイですよね。その先行販売が始まったって聞いたから、それに変えたくて」
ただ無邪気に笑ってそう告げる。
――前言撤回。大人びて見えたのは黙って澄ましている時だけだ。笑えば一転、以前と変わりなく人懐こい。
「ここでも取り扱いはしてるんですよね?」
授業が休講の時間に立ち寄ったらしく、平日の昼間である店内に相変わらず客は疎らだった。携帯コーナーも閑散として、優駿の他に客らしい客はいない。
薫はたまたま席を外しており、カウンター内にいた宰は幸か不幸か手が空いていた。
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