パレット3 コロボックルのはなし

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「ごめんね」 「いいんすよ」  顔は高揚していたが、俺も慣れたものだ。  これも鏡で練習したいい角度で歯を輝かせて笑顔を送る。  これをするといつも女の子は顔を赤くさせるんだぜ。  と、思いきや、春香は見当違いなところを見ていた。  って、だから近っ! 俺のど、どこみてんだ?   「これ」 「ん?」 「首輪みたい……」 「はい?」  俺の首にかかっている洒落込んだレザーネックレス。それをまさか首輪扱いとは!  結構高かったんだぜこれ。  ちょっとだけムッとなりかかった俺に、春香は顔を赤らめながらマシュマロみたいな笑顔を向けた。 「これとっても素敵だ」 「へっ?!」  これ、とっても素敵だね。  これ、とっても素敵だね。  俺の頭にその言葉がリフレインする。    そうだよね、そうでしょうとも!!   素敵か。素敵ーっ、かー参ったな。  じゃ俺もう一生つけてるっすよ、お風呂入るときも、寝るときも 便所でも、どんな時もペットの首輪みたいにつけてるっすよ!!  春香はじっと俺のレザーネックレスを眺めると、飾りの部分の鈴みたいな形の部分をいじる。  音なんて鳴らないのに、「ちりりんっ」と声に出して鳴らしたフリをする。  そしてニッコリ微笑んだ。  それは見たこともないような可愛らしくとろけそうな柔らかな笑みだ。  初めて見た春香の笑顔。  ヤバっ。ヤバいっ。  か、可愛すぎる。  俺には、チャラい格好の俺にはもったいない笑顔!  春香の不可思議な行動にまた俺は動揺を隠せない。  可愛らしい素顔を眺めていたいけれど可哀想だから、俺は落ちていた眼鏡を拾い彼女の手に渡した。  春香はそれを手に取ると、ほっとした表情を浮かべ、また大きな眼鏡を掛けてしまった。目がしゅんと小さくなる。  あー! 可愛いももんが顔が消えた……。 「わっ!」  今度は春香の方が焦る。  眼鏡を掛けた途端、自分がかなり俺に近づいていることに気づいたからだ。 「ごっ、ごめんなさっ!!」  ゴスッ!  いきなり顔を上げたので春香の頭が俺の顎に直撃した。 「て???!」 「ごめんなさい、ごめんなさい」 「いや、いいんすけど」  コロボックルの攻撃は凄いな。 「このイーゼルってあっちの倉庫?」  ひりひりした顎を少し痛そうに押さえながら、俺は苦笑いをした。
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