パレット3 コロボックルのはなし

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 話終わった彼女たちが立ち去るのと同時に、俺もタメイキをついて、スケッチブックを閉じると、椅子に腰掛けた。    それから時間だけが流れていく。  春に知り合い、冬結を挟んで春香とも友達になったものの、未だに友達、いや下手したら友達の友達だ。  本当に彼女に言ったとおりの友達の友達。そのまんまで少しも発展性がない。  積極的な冬結の誘いで三人で夕食などには出かけることはあっても、春香は少し微笑む位の笑顔を見せるだけで、ほとんど聞き手に徹している。だから彼女の情報は少ない。  その間に知った春香の事。冬結と同じ一浪だということ。  冬結に言わせると彼女の今まで描いてきた絵は不思議な感じ。  彼女を見た時に感じたイメージと違い色彩が暗い。  いつもマスカットジュースを飲んでいる。それくらいだった。    ただ、心理学の勉強をしている時に気になったことはあった。  過去の絵を持ってくるということでおのおのが数枚の油絵を持ち込んだ時、彼女の絵をじっくりと俺は堪能した。  彼女の絵はいつも一人、誰かが佇む絵が多いのだ。夕暮れ時の景色、雨が降ったビルの街、暗い今にも凍えてしまいそうな森の中。  極めつけは湖の底で持てるだけの蒼色を使ったもの。とても綺麗だったのだが、どこか絶望的な気分にさせる絵。  そしてその中にいる人物がいつも向こうを向いて立っているか座っているか沈み込んでいる。  男性なのだろうか? いつもそこに誰かが一人だけいる。  時折女性の事もあるが、描く作品の風景画がとても淋しそうなのだ。  常に遠くを見渡せる風景の中に紛れるように一人誰かが向こうを向いて立っている。  春香の絵を見ていると未来を見ているというよりも、どこかに何かを置いてきてしまったような、過去を向いているような気さえする。  よくないよ、春香ちゃん、俺の第六感が言うんだよ。  こんなんじゃ、なんかいけない。  あまりにも今まで接したことのある女性と違い、俺は春香に戸惑ってばかりいた。  春香の事は知りたい。知りたいけど、踏み込めない何かがあると。  なんか調子狂うな。  くそっ、でも気になるもんは気になるんだ。  入学して二ヶ月はあっという間に過ぎた。  その日の朝、俺はまだ六月なのに蒸し暑かったので、半そでのシャツで登校した。
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