0人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
朝まではいい天気だったのに、突然どこかからふって沸いたようにみるみる空が暗くなり、突然巨人のでいだらぼっちが空で大泣きしているような集中豪雨が降ってきた。
「うはーー! 雨にも負けず風にも負けない人になりてーー!!」
周囲の生徒たちと共に慌てて校門を駆け抜け、学校の出入り口へ駆け込む。
同じように駆け込んできた女性徒に見覚えがあった。
そうだ。あの時春香が廊下で話していたデザイン科の子だ。
俺はその子に声を掛けようと思いかけて。
「おはよう、春香!」
「あ、おはようございます。美妃ちゃん」
「ほら、タオル使いなよ! いきなり降ってきてもうー課題が濡れちゃったよー」
その子が振り返った先を見ず、俺は何を思ったのかさっと下駄箱に隠れてしまった。
「ありがとうございます」
二人は自分の体をタオルで拭きながら歩いていく、俺も今日は春香と同じ教室で講義があり、教室へ向かっていた。
別に俺はストーカーじゃないぞ。
うん。だって教室同じだし。
俺も同じようにハンカチで頭や顔を拭きながら他の生徒に混じって歩いていた。
その時何気なく耳に入った二人の会話。
「春香、……そのっ、元気?」
「……はい。元気です」
美妃ちゃんと呼ばれた女の子がシュシュで一つに束ねた髪を揺らしながら首を横に振った。
「春香なんていうかあたし」
「大丈夫、私は大丈夫ですから」
「ほんとに? 私達も春香が元気になれれば、その、『約束の絵』なんて気にしないから」
「ダメです。それはダメなのです。ちゃんと描きます、描きますから、私っ!」
「春香……」
なんなんだろう? 約束の絵って? 気になる……。
それからは雨が降ったり、暑い日だったりと、不安定な空模様が続いた。
帰り道、アスファルトの上が暑さでゆらゆら揺らめいているように感じる。
駅まで続く道で俺は誰かに肩を叩かれた。
「よっ! 夏来」
「冬結っち」
二人で並んで歩く。
最初のコメントを投稿しよう!