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「ねぇ、夏来は芸術祭に描く絵なにか決めた?」
「芸術祭ってまだ先の話じゃないっすか?」
「うん。でも先輩から聞いたんだけどね、この学校やたらに芸術祭に力入れてるらしいんだよ、もうこの時期からみんな課題を考え出すってさ。なんでもコンテストも兼ねてるらしいよ」
「ぅん……」
「あれ? あんまり気乗りしてない?」
「そんな事ないっすよ。そういや俺も前に誰かから聞いたことあったな。入学前のアトリエにいる頃からだったかな」
「あたしさ、夏来の絵なんか好きだなー独創性があるし、絵本と淡い抽象画が混ざったような、絵。しかも、夏来あんたさよく見ると結構いい男だしねー」
「よく見るとは余計っすよ」
そういうと冬結はケラケラ笑う。
「だからさ、あたしと付き合わない?」
その言葉はあまりにも軽く、突然どこからか降って沸いたような感じだった。
そしてこのシチュエーションには見覚えがあった。
そう、いつも俺はこうやって積極的な女性から交際を申し込まれたんだっけ。
とくとくと胸の鼓動が変に速くなってくる。
冬結の顔を見ようにも視線がそちらに向けられない。
でもすぐにうんとはうなづけなかった。
いつもの俺は軽く、とにかくお友達からみたいな調子ですぐに即OKしていたものだ。
でも不意に頭に思い浮かんだのは背の低い目がももんがみたいにころっとした体の小さなコロボックル。
一体全体俺はどうしちやったんだろうか。
今までにない感情に俺は戸惑うばかりだった。
「なーんてね」
冬結の気の抜けた言葉に俺は張っていた緊張の糸が切れ、肩の力が抜ける。
「冬結っち……」
流石に脱力。冗談で言うなよ。
俺はじと目で冬結を睨んだ。
俺の焦りに冬結は面白がってまたケラケラと笑った。
「じゃ、お友達からってことで……!」
「え……」
ポンと軽く肩を叩かれ冬結は駆け出す。
一瞬わからなく、問いかけようとしたが、彼女は走り去ってしまった。
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