パレット4 想い出渡り

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 芸術祭の課題か……。  春香は何を描くのだろうか。  またあの淋しげな一人ぼっちで背中を向けてる、そんな人を寂しい風景画が包み込むような作品になるのだろうか。  季節は巡り、芸術祭用の絵を描く準備が近づいていた。  それぞれに思い思いのサイズの作品を作っていいということで、俺は何を描こうかとまだ悩んでいた。  題材が思い浮かばない。  それぞれが準備を始めて、俺は何気なくそっと春香の背後にイーゼルを立て様子を見ることにした。  春香のキャンバスのサイズはそれほど大きくない。  高校の美術部でよく描いていたくらいの12号の物にするようだ。  俺が様子をさりげなく見ていると、どうやらその絵の中に人物の肖像画を描く様だ。  驚いた。今までこれほど大きく人物を入れた春香の絵を見たことがない。  何が始まるんだと、俺の胸の鼓動が速くなる。  よく見るとキャンバスの右下に小さな写真を置いている。  遠目でもその写真が人であることがわかる。  誰かを描こうとしているのか。  しかし、春香は何度か下書きをしてはまた消し、描いては消している。  その都度小さくため息をついた。  結局その時間は形にならず終わった。  俺は休み時間に春香の姿を探した。  自動販売機の前で春香の姿を見つけると、声を掛けようと近づく。  春香はマスカットジュースを手にすると、「勇気を出して描かなきゃ……」と小さく呟いていた。  そしてそのまま俺には気づかず走り出してしまった。  その後も制作時間が続くが、やはり春香は筆が進まない。    俺も進まないのは同じだった。  けれど……。  俺は黙ったまま、春香の動向を見つめていた。  今日はお昼休みに春香はお弁当を、冬結は売店で買ったサンドイッチを持って学食にいた。 「春香、本当に好きなのね」 「はい」  春香は冬結に照れながら笑顔を向けた。  お弁当箱の横にはさっき買ったマスカットジュース。  俺は幾度となく春香がマスカットジュースを買うのを見ていた。
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