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「ねぇ、何で春香はマスカットジュースがそんなに好きなの? 夏来も気にしてたよ?」
「星林くんがですか? どうしてですか?」
「どうしてって、うーんとね」
冬結は上目遣いになり、返答に困る。
俺は冬結の視界に自分が入ったのではないかと思い、不意にガタイのでかい奴の陰に隠れた。
春香と冬結はほんとに違うと、俺は男の陰で豚丼を食いながら見ていた。
時折窓ガラスから見える広いキャンパス内を生徒達が大きなスケッチブックやら学校の課題を入れるケースなどを抱えて歩く様子を眺めていた。
この大学はわりと緑が多く、あちこちの芝生やら、ベンチやらでお弁当を広げている者もいた。
「冬結、絵、芸術際までに間に合います?」
「ん?そうだね、なんとか……。そういう春香は?」
冬結が尋ねると春香は戸惑いがちに「まだ……わからないです」と小さく言う。
「夏来のもちらっとキャンバス覗いたんだけど、まだ真っ白で、あいつもなんか悩んでたなー」
「星林くんもですか?」
俺はガタイのいい男がのん気に天丼を食べている陰で、身を縮めながら二人の会話を盗み聞きしていた。
男は屈みながら飯を食ってる俺に、不思議そうな視線を時折見せていたが、俺は気にしないで二人の話に耳を傾ける。
俺の名前が出る度に、春香が何ていうのかドキっとしてしまう。
「そういえば私、この間みっともなく星林さんの前で転んでしまいました」
「えっ、どしたの?」
「キャンバスに下塗りをした後、イーゼルを片付けに倉庫に向かってる途中で、誰かにぶつかってしまったんです。その時に星林くんに助けてもらってしまって」
「そんな事があったんだ」
俯きがちな春香。
「変な子だと思われただろうと思います。星林くんも冬結みたいにお洒落だし、しかも眼鏡落としちゃって最初わからなかったから、失礼なことしちゃったかもしれません」
「ああ、また落としちゃった?」
そんな風に思ってたんだ。そんなことないのになぁ。
「大丈夫じゃない? あいつほら、軽そうだし、気にもしてないと思うよ」
おい、冬結っち。俺のこのナイーブな性格を知らないな?
見た目はチャラいが心は純粋なんだぜ?
あんま説得力ないかもしんないけど。
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