パレット4 想い出渡り

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「そう言えばこの間のあの会話なに?」 「えっ」 「二人で帰ってた時に後からきた春香の友達の、ええと、ほら、グラフック科の」 「ええ、美妃ちゃんですか?」  俺は聞き耳を立てていた。 「デザイン科より油絵科の方が落ち着いているとかなんとかいう話ですか?」 「ううん。夕方近くに竹林の近くを歩いていた時にもう四年になるから会いに行くとかなんとか……」 「……」  春香は堪えきれない感情が沸いてきたのか、辛そうな視線を冬結に送った。   「私は、まだ会えません。彼と、美術部みんなが楽しみにしてくれてた絵が完成してないから……」 「でも彼女はもう春香は開放されるべきだって言ってたよ」 「わかってます。でも、ダメなんです……あれを描かないと私は先には進めないのです!」 「春香……」 「絵って、なんなのよ?」  目の前の男がいきなり席を立ったので、不意に俺の意識が学食に引き戻された。  夜、俺は自宅の布団の中で考え事をしていた。  学食での会話、そしてイーゼルにキャンバスと一緒に立てかけてある春香が見ていた写真が気になっていた。  一体春香は何を描こうとしているのだろうか。  でも、俺は聞ける立場にないしなぁ。  まだ、友達の友達だからな。 「あーもーこれっぽっちも俺っぽくねぇえええ!!」  俺は部屋で叫ぶとゴロゴロと転げ回った。  こんないじいじするのは俺じゃねぇ!!  翌日も昨日からそのままになっている芸術祭用の絵の前に向かう。  だが俺の目の前のキャンバスもまだ何もない、真っ白だ。  自分の右斜め前には春香が下書きを進めていた。  彼女の後ろ姿を見て俺は呟く。  コロボックルか……。  しかし、俺はある瞬間、土台となる人の形が春香のキャンバスに浮かび上がると、軽いショックを受けた。  そこにはどう見ても短髪の男性らしきシルエットが浮かび上がってきたのだ。  ……なんだ? 春香は誰を描いてるんだ?  下塗りをしたキャンバスに鉛筆で下書きを何十回も繰り返したあと、こくりと頷くと、おもむろに春香は絵の具の道具を取り出した。  パレットにプラスチックの溶き油と、ベースになるシルエットの肌色の単色をのせていく。  恐らく乾きの早い溶き油を使っているのだと思う。  それから重厚感を見せるため別の溶き油を使うものもいれば、そのまま同じ油を使うものもいる。  
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