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しかし、俺の嫌な予感はおおよそ当たっていた。
どうしても知りたい病の俺と春香の決意。
冬結も交え授業の後、誰もいなくなった教室で春香の話を聞いた。
大きな入道雲、柔らかな川のせせらぎ、そばにある木々が風に揺れてざわめく。
近くに滝があるのか水音が聞こえる。
その川原の日陰にイーゼルを立ててキャンバスを置く。
向こうの景色は日が当たって明るく川面がキラキラと光っていた。
彼は川が大好きだった。彼が大好きな物があるからだ。
川で冷やそうとしたジュースが奥に落っこちてしまいとうとう流れてしまった。
木の棒でつついたけど、もうどうしようもなく深いところに落ちて、がっかりして、しまいには先輩が笑った。
お昼にペンションから持たされたのは、梅干しか入ってないおにぎり2個セットと3個セットと焼き魚。
申し訳程度の漬物。それが薄い包装紙に包まれていた。
お揃いのジュースが川の底で揺れている。
春香がいうあの方が大好きなジュースだ。
大声で喉が渇いた?と笑い合っていると、近くの農家のおばあさんがお盆に麦茶と黄色いスイカとその川で取れた焼き魚を載せたお皿を持ってやってきた。
突然のことに目を丸くした。田舎の人の温かい心に触れた。
そのことに喜び合う。その時に見せるあの方のやさしい笑顔。
お昼を終えて、再びキャンバスに向かう。
川でちょっと遊んでた彼が春香の絵をふと見たくなったのか、近づいてくる。
彼の手つき、やや白い肌、遠くを見る瞳、柔らかな頭の猫っ毛が風になびいていた。
それが春香の言うあの方との思い出。
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