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小西あすかは母の温かな愛に恵まれ、とても素直な、そして頑張り屋で一途な所もある、小学校三年生です。今日はピアノの発表会です。会場は市民会館。あすかは朝から大張り切りです。もうすっかり準備は整っています。彼女は四年近くピアノを習っています。二人共おしゃれに飾っています。
「ママ、綺麗だよ」
「ありがとう。あすかだって綺麗だよ。可愛い!」
「ママ、あすか頑張るからね」
「ママ楽しみにしているからね。頑張ってよ、あすか。帰ったらごちそうよ」
「はい、ママ。あすか頑張る!」
あすかの顔は可愛い笑みで一杯です。二人は家を出た。庭を通る途中、あすかは桜の枝に、蜘蛛の巣にかかってもがいている蜜蜂を見た。
「可哀想な蜜蜂さん、今助けてあげるからね」
あすかは桜の葉っぱを何枚か千切り、それで蜜蜂を助けた。
「あすか、何してるの?」
「ママ、今行く」
二人は会場へと向かった。会場には大勢の観客がいた。あすかは会場に着くなり緊張した。
「うわぁ、一杯!」
「やりがいあるね、あすか。頑張ってよ」
あすかはにっこり笑った。
「ママ、ちゃんと聞いてよ」
あすかの出番は午前のシャボン玉と、午後のふるさとの二曲。最初の演奏は上手く出来た。しかしふるさとは間違えた。彼女は最後まで弾いたが、がっくり気落ちしてしまった。あれ程頑張ったのにという思いと、みんなは上手く出来たのに自分だけ。そういう思いが余計に気落ちさせた。記念撮影を終えて会場を後にしても、彼女の気落ちした顔は変わりません。
「あすか、上手かったわよ。今度はもっと上手く弾こうね」
母は娘を慰めようとしたが、
「間違えたもん。上手い訳ないもん」
「あすか、間違えた事よりね、気落ちしている方が問題よ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「にっこり笑うのよ。笑って」
「出来ないわよ。間違えたもん」
「あすか、ママはね、間違えて弾いてもあすかが大好きだよ。ママと手をつないで帰ろう」
母は娘の手を取って歩いた。あすかの気落ちした顔は変わりません。母はどうしていいか、分かりません。やがて家に着いた。小さな平屋の一軒家。持ち家です。家に着いてもあすかの顔は変わりません。
「あすか、もう忘れなさい。これから頑張って、次はちゃんと弾けるようにしたら、それでいいのよ」
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