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ママの思いはあすかに伝わりません。
「だって、ママにちゃんと弾いたの聞いてほしかったのに…」
「ありがとうあすか。その気持ちでママは十分よ。さぁ、家に入ろう。ママあすかの好きなお菓子作るからね」
家の中に入ってもあすかの顔はほとんど変わりません。
「あすか、ママあすかの好きなお菓子作るからね。何がいい?ホットケーキ?」
「ママ、私、何もいらない」
ママはやや落胆気味に、
「あすか、今日の事はもう忘れなさい」
「だって、悔しいの!」
ママは気を取り直して、
「あすか、苺食べよう。食べるでしょう?昨日田舎からハチミツ届いたの。食べるでしょう?」
こう言ってママは苺を出した。ママの実家は養蜂場を営んでいた。
「ママ、いらない」
「あすか、いい、よく聞きなさい。今日間違えた事を明日は上手く出来るように、頑張る事が大切よ。普段なら上手く弾ける事、ママ知っている。だから間違えた事は忘れて、明日からまた頑張りなさい」
「ママ、大切な時に間違えたら何もならないの」
ママは思いが通じない事に、子育ての難しさを胸が痛む程感じながら、娘を見つめていた。あすかは独り言のように、
「どこかに夢の国ってないかなぁ」
「何言ってるの、あすか?」
「私のがっかりしょぼくれを治してくれる、夢の国ないかなぁ?ママ?」
「あすか、何言ってるの?間違えた事は忘れて、苺食べて元気出して。これから一杯チャンスあるんだからね、あすか」
あすかは苺に手を伸ばして一個取った。
「失敗を元に戻してくれる世界ってないの?ママ、ないかなぁ?あったらいいのに」
あすかはこう言って立ち、奥の部屋に向かった。ママはその後ろ姿に、
「あすか、どこ行くの?」
あすかは返事もしなければ、振り向きもしません。奥の部屋に消えようとする娘にママはやや感情的に、
「あすか!もう…」
ママは落胆してため息を吐いた。子育ての難しさに胸を痛めたまま、どうしていいか分からずお手上げ状態です。あすかは勉強机に向かって正座し、手に持っている苺を見つめていた。その顔は幾分和らいだとはいえ、がっかり気落ちしたままだった。しばらくして、
「苺よ苺、どうか私を夢の世界に連れて行って!」
あすかはこう言ってしばし苺を見つめた。それから机に臥した。やがて彼女は夢を見た。
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