185人が本棚に入れています
本棚に追加
不安全開で隣を覗きこんでも、こっちを振り向きもせずに請求書をじっと見つめて。
「いや、合ってる」
「……なんですか、ニヤついて」
ひとまわり近く年上のオッサンが、顎を指二本で撫でながら嬉しそうに目を細めている。
キモいと言えばキモいし、可愛いと言えば可愛い。
貴重な表情を見れたから、焦らせないでよという文句は飲み込んだ。
「ここは分かんないだろうと思ってたのに。教えてないのにちゃんと出来てるからちょっと嬉しくなっちゃって」
――たまに。
ぽろっとこういう事を言ってくれるから余計に、結果を出したくなる。
認められたい。
褒められたい。
喜ばせたい。
木嶋さんの期待に応えたい――期待されてる以上のことを、したい。
「今日あたり飲み行く? 二人しかいない部署で、そういや歓迎会もしてなかったな」
「マジですか。行きます!」
どうしたら木嶋さんの役に立てるだろうとか、どうしたら木嶋さんが喜んでくれるだろうとか。
それこそ休みの日まで、最近四六時中このオッサンのことを考えていたりするから。
――よもやこのオッサン相手にこれは恋ではあるまいな、と、一応自分に言い聞かせてはいるのだけど。
たった二人の部署の直属上司からの初めてのサシ飲みのお誘いを、正直に喜んで何が悪い。
最初のコメントを投稿しよう!