185人が本棚に入れています
本棚に追加
三十五歳の再スタートに乾杯。
――なんてことは、別に言われやしなかったけど。
色気のない焼き鳥屋のカウンターに横並び。
灰皿、ひとり一個。
片手にビール、片手に煙草。
これは恋ではない、と自分で頷ける丁度良い気楽さと距離感を持てる席が、居心地良かった。
木嶋さんはお酒が入ると仕事の話ばかりをした。
仕事が好きなんだ、と思う。
私もそうだし、仕事が好きな人は、好きだ。
もう慣れた?
続けて行けそう?
そんな、探りを入れるような質問から始まって。
会社の悪いとこもそろそろ少しずつ見えて来たでしょ?
上層部の入れ替わりもあって今は慌ただしい時期だけど、きっとこれから良くなるから。
正直ぐだぐだのままでも回ってはいるし、改革にまわすマンパワーが足りないんだから、このままでもいいんだろうけど。
自分の力で変えていきたい、と思うんだよね。
――頼むぜ同志、一緒にやろう。
まだ入社したての私なんぞに、結構お酒の入った木嶋さんは、そんな嬉しいことも言ってくれる。
たまに、思い出したように私のプライベートを聞いてもきた。
自炊してるの?
休みの日何してるの?
あんまり興味もなさそうに、社交辞令的に。
何となく、それを入口にして、彼が本当に聞きたがっていることが分かった。
最初のコメントを投稿しよう!