ニ。

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三十五歳の再スタートに乾杯。 ――なんてことは、別に言われやしなかったけど。 色気のない焼き鳥屋のカウンターに横並び。 灰皿、ひとり一個。 片手にビール、片手に煙草。 これは恋ではない、と自分で頷ける丁度良い気楽さと距離感を持てる席が、居心地良かった。 木嶋さんはお酒が入ると仕事の話ばかりをした。 仕事が好きなんだ、と思う。 私もそうだし、仕事が好きな人は、好きだ。 もう慣れた? 続けて行けそう? そんな、探りを入れるような質問から始まって。 会社の悪いとこもそろそろ少しずつ見えて来たでしょ? 上層部の入れ替わりもあって今は慌ただしい時期だけど、きっとこれから良くなるから。 正直ぐだぐだのままでも回ってはいるし、改革にまわすマンパワーが足りないんだから、このままでもいいんだろうけど。 自分の力で変えていきたい、と思うんだよね。 ――頼むぜ同志、一緒にやろう。 まだ入社したての私なんぞに、結構お酒の入った木嶋さんは、そんな嬉しいことも言ってくれる。 たまに、思い出したように私のプライベートを聞いてもきた。 自炊してるの? 休みの日何してるの? あんまり興味もなさそうに、社交辞令的に。 何となく、それを入口にして、彼が本当に聞きたがっていることが分かった。
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