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「まだ引きずってるの? あー、つってもつい最近のことだもんなぁ」
お仲間ですよね、という私の確認は肯定も否定もせずに、木嶋さんは質問を重ねてそれから勝手に納得した。
引きずっているのかどうかと聞かれても正直分からない。
ただ、傷口はまだ生々しい。
「戻りたいと思うの?」
生グレ。
枝豆。
生グレ。
煙草。
「分かんないですよ、もう。私からそれを言い出すことはないです。でも向こうから言ってきたら、分かんない」
分からない、けど。
でももう、せっかく新しいスタートを切った人生を、再びリセットするつもりはない。
「先のことは分かんない。けどこの生活を手離すつもりはないです。前ん時は、仕事辞めなきゃいけなかった。私好きだったのに、前の仕事」
生グレ。
焼酎。
煙草、煙草、煙草。
「もうそういうので辞める気はない。私辞めませんよ、仕事」
「仕事、好きなの」
「好きです。今すごく楽しい」
そりゃいい、と木嶋さんは笑った。
そして、二度目の乾杯。
「恋とか、もういいなー。一生一人でいいや」
「また。全然次あるでしょ、まだ若いんだから」
「どこが。女の三十五はもう若いって言いませんよ」
四十六の木嶋さんは少し顔をしかめた。
男はいいと思う、四十代でもまだ若いし、バツ付いてた方がモテるとか言うし。
「まだ好きなの? 旦那さんのこと」
苦笑まじりに「引っ張りますねぇ」と言っても、まるで堪える気配はなかった。
「正直――……」
木嶋さんが、焼酎の空いたグラスをカウンター越しに店主に向けて掲げた。
私も隣で真似をする。
生グレ、お代わり。
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