ニ。

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「結婚してる間、ずっと旦那に恋をしていたかと言うとそうではない」 嘘を吐かない人間相手に、下手な誤魔化しはしない。 隠し事なら出来るかもしれないけど、嘘は吐けない。 「ああ……へえ」 なんだか可笑しな相槌だった。 驚いたんだか納得したんだか、出来なかったんだか。 「じゃー別れたかったの?」 「違いますよ、そういうんじゃなくて。何ていうか……恋、とかじゃなくて。結婚したらもう、家族、だから。そこにいるのが当たり前の。離れるとか、考えたことなかった」 生グレ、生グレ、生グレ。 煙草、枝豆、生グレ。 「家族、だと思ってたのに。あんな、紙切れ一枚で、簡単に」 煙草、焼酎、煙草。 焼酎。 生グレ。 焼酎、焼酎、焼酎。 生グレ、煙草、お代わり。 木嶋さんが知りたがった離婚の経緯を、それからどこまで話したのか良く覚えていない。 彼にもあるはずの過去は、多分全く聞き出せなかった。 「まーそうなっちゃったらさぁ。男として? 責任果たそうとしたんじゃないの?」 どんな流れで木嶋さんの口からその言葉が出て来たのかも覚えていない。 ただやたらと印象に残った。 別れた元旦那がどう、ということではなくて――、木嶋さんが、『男として』という考えをする人だということが。
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