サン。

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「おー、なんか前会った時より元気になってる」 「まーねー、仕事初めてからね。ようやく自分に戻ってきた気がするよ」 少し早い忘年会、と称して、夏地元に戻った直後に再会を果たしていた友人との飲み会。 あの時は身の上を話しながらうっかり泣いたりして結構心配かけてしまったけれど、嘘のように元気になってしまった私を見るなり彼女は顔を綻ばせた。 「仕事がさ、楽しくて。上司にも恵まれたし。会社は変なとこだけど」 「えー良かったじゃん! 人間関係大事だよー」 良い人いないの? と彼女はしつこく聞いた。 良い人の定義を聞きたい。 顔が良い男なら数人いる。 けれど家庭持ちばかりだし、そもそも本社の他部署とは業務上の絡みが少ないのでほとんど接点がなく、正直未だによく分からない。 ちなみに二次面接のときのイケメンは、本社勤務から支店長に配置替えになった。 肩書きは付いたが、本社から支店への異動はどうやら降格らしい。 後から知ったが、彼も夏に入社したばかりだった。 どうりで会社のことをあまり知らなかったはずだ。 異動も含め、入退社が多い。 本当に入れ替わりの激しい会社だった。 二日休んで出社したら隣の席に知らない人が座っていたりする。 この人がどこから来た誰で、先週まで隣にいたはずの彼女はどこへ行ってしまったのか。 人が辞めることに慣れた会社には、送別会どころか歓迎会を行う風習すらなかった。 新人には警戒心剥き出し――どうせすぐに辞めるんだろ、という心の声が、今は聞こえるようになっていた。
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