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「便利だな、酒は」
「……え?」
「今日のことは、朝になったら忘れてる」
木嶋さんは、一気にグラスを空けた。
お前は普通に忘れりゃいいし、俺も忘れたことにしてやる、と。
「あの、私まだ」
湯たんぽ必要だなんて一言も。
「透けてんだよお前、本音が」
――淋しくて。
あっためて欲しくて。
甘えたくて。
でも自分の気持ちが覚束ないから。
素直に手を伸ばす覚悟も出来ない。
……怖い。
「別にいんじゃねーの、弱ってる時くらい」
「だってそんなの」
「酒の上の事故だとでも思ってりゃいいよ」
「や、事故っていいほど若くも」
「じゃー貰い事故にしとくか? 俺が事故ってやるから」
――狡い。
この人の狡い優しさが、私を弱く、狡くする。
「お前が聞けよ、要るか要らないかって」
決められない私の代わりに、この人は狡い答えを口にする。
私が欲しい答えを。
「――要るんですか、要らないんですか」
「欲しい」
「……っ」
即答。
それは質問の答えとしては、若干ずれていて。
そう言えば初めてあったあの日も、この人はストレートにそう言ってくれたんだった。
私が『欲しい』と。
本当にこの人は、実直で。
「……馬鹿、ですね」
「そーか?」
「馬鹿ですよ」
こんな半端な私に、自ら利用されに来るんだから。
馬鹿以外の何者でもないじゃない。
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