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『とりあえずやってみて』
『分かんなかったら聞いて』
『感覚的にその内覚えていって』
木嶋さんはそういう教え方をした。
入ってみればこの会社は彼が面接で実直に教えてくれたよりもずっと基盤がなってなくて、当然手順書なんかは存在しなかった。
時には『答えは俺の頭の中』なんてこともある。
イレギュラーの対処の仕方はマニュアルになっていないどころか、彼ひとりが把握している以外に自力で調べようがなかった。
木嶋さんは怖ろしく教えるのが下手な人なのか、もしくはトライアンドエラーで育てようとしているのか、或いは最初だから私を試しているのかのどれかだ。
でも別に、そのどれでも良かった。
目の前にやるべきことがあり、山ほど覚えることがある。
足踏みだけして前進出来ずにいる内に季節をひとつ失ったことを思えば、進んでいる実感が持てる今は楽しかった。
しばらく仕事から離れていたから、キーボードを打つ指が鈍っている。
私はそんな自分にやきもきしているのに、木嶋さんは私が入力完了を報告するたびに「速え」と顔を引きつらせた。
経験と知識と野生の勘みたいな何かで抱えきれない仕事量を一人で回していた彼は、恐ろしいほど事務仕事が苦手なのだ。
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