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彼の負のオーラ――今にも過労死しそうだったあの頃の真相は、入社後に分かった。
この部署の仕事を、ほんの数ヶ月前までは木嶋さんともう一人で二分していたらしい。
それでも事務仕事がまわらなくて追加で事務員を採るはずだったのに、片割れが直前に退職して一人きりになってしまっていたのだ。
そりゃ、単純計算で仕事量が倍になっていたわけだから。
死相も出るわ、本当にお疲れ様。
入社から一ヶ月あまり。
私が役に立てたのかどうかは分からないけど、木嶋さんの顔からあの時の死相は消えた、と思っている。
「あれ、これ……」
「え、間違ってました!?」
提出したばかりの請求書を見ながら呟いた木嶋さんを、焦って仰ぎ見た。
配送の外注先からの請求百五十件余りを、どの店舗の経費に計上するのか経理に報告するために全て調べるのは月次の仕事のひとつだ。
納品先や引取先を見れば大抵分かるが、たまにイレギュラーの移動区間のものが紛れている。
多分答えは木嶋さんの頭の中。
でもそこを敢えてすぐには聞かずに、感覚頼りにしたのは木嶋さんの教えに従っているつもりだった。
私は彼ほどの野生の勘は持ち合わせてないけれど、結構自信あったのに。
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