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「そこで、何をしているんですか?」
最初は、私に声をかけているんだとは分からなかった。
久しぶりに聞こえた人間の声に、私は静かに瞼を開く。
私の視界の中に、男の人が一人立っていた。
横に視線を滑らせても、このコーナーには私と彼しかいない。
そのことに気付いてようやく、私は彼に声をかけられたのだと理解した。
「そこで、何をしているんですか?」
彼は私にもう一度問いを向けてくる。
薄手のコートに、仕立ての良いスーツ。
穏やかな声。
彼は、あの人に似ている。
でもあの人がここを訪れる理由は、もうない。
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