心の海を泳ぐイルカ

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「……あなたは、誰?」 「先に質問したのは僕の方ですよ。  まずは僕の質問から答えてくれなくちゃ」 『そのお話に出てくる王子様はね、語り部が質問に質問を返すと必ずそうやって答えるんだ。  それから、語り部の地の文で必ずこうやって入るんだ。  一度質問を発したら、答えてもらうまで決して諦めたことがないのが王子様でした……って』  男性の受け答えに、彼の言葉を思い出した。  私の記憶の中にいつまでも居座る、彼のことを。  私は下枠に腰をおろして体をもたれかけさせた水槽へ目を移した。  分厚いガラスの向こう側には、日の光が幾筋も注ぎ込まれてキラキラと輝いている。  その中を跳ねては深くまで降りてくるイルカの姿はまるで、パソコンのスクリーンセイバーを見ているかのようだった。
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