第1章

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女性の頭の中を見るために、接続用端子部品の挿入口がある頭の皮膚を一部分だけナイフで剥がした。 感触としてはゴムを切っているのと同じようで、この【人間】は血が通っていないから、そういった面での問題は一切ない。 挿入口にプラグを挿し込み、モニターに表示される数字や用語の羅列を見て、カルテに追記をする。 この女性は確かに、感情回線が混乱していた。 どんな言葉を聞いても、どんな物を見ても、それらに対するリアクションを引き起こすための引き出しが、どういうわけか笑うことにしか繋がらなくなっていたのだ。 外傷もなければそれ以外の不具合はどこにも見当たらないので、僕はカルテに、改善の見込み有りと赤いペンで書く。 「あとはよろしくお願いします」 カートに乗せた女性とそのカルテを修理担当者に引き渡し、頭を下げる。 担当者の男は露骨に顔を歪ませ、嫌味に取れる溜め息を吐いた。 「改善の見込み有り、ねえ。おたく、廃棄分別に所属してどれくらい?あのねえ、言っておくけど、故障箇所が少ないからとか、外傷がないからとか、そういった表面だけの判断で改善の余地の有無を決められてもね、実際に直すのは俺たちなんだよ。感情回線の複雑さはおたくにはわからんだろうし、いっそ廃棄処分にして使えるパーツを持ってきてくれた方が、確実に効率が良いんだよね」 担当者の男はペチャクチャと饒舌に説教をしながら、カートの上の女性の頭を小突く。 「すみません。よろしくお願いします」 修理担当者に拒否権はない。 そもそも拒否という行動自体、プログラミングされていないのだ。 担当者の男が渋々了承し、カートを押して去って行く。 これで今日の分は終わりだ。
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