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本日担当した廃棄分別対象の【人間】の処理が終わり、デスクチェアにどんと腰かけた。
壊れた【人間】の修理をするというのは、気が楽なものだ。
例えその【人間】に、本来の意味での“感情”がなかったとしても、救ってやったことに変わりはない。
対して僕の所属する廃棄分別というのは、惨たらしいものだった。
使えない、動かないとわかった時点でその【人間】を、例え本来の意味での“感情”がなかったとしても、殺してしまうことに変わりはないのだ。
人を殺めるのはあまりにも酷だった。
いくら造られた【人間】とはいえ、それはまるで生身の人間のように笑い、会話をし、触れ合うことだってしている。
そうした行動を取る物の破壊、その行為を殺人と呼ばずに、何と呼ぼうか。
だからこそ僕は、ほんの少しでも改善の余地の見られる【人間】がいたならば、どんなに悪態を吐かれようとも修理はしてもらいたいと思う。
それは自己保身でもあり、本当は【人間】と関わりたくないという本心の顕れでもあった。
僕はそのむかし、大切な人を失った。
栗色の優しい瞳が印象的な、綺麗な女の人だった。
多分、母親だとか、姉だとか、恋人だとか、そういった関係ではなかった。
感覚として残っているのは、大切な人。または、大好きな人。
僕にとって母であり姉であり、恋人のようでもあった彼女は、多分、僕の身の回りの世話をしてくれていたのだと思う。
僕が心因性の記憶喪失を患う原因となったのは、恐らくその彼女を失ったショックによるものだ。
派手に記憶を失ったわけではなく、一部分だけをどうしても、思い出すことが出来ないのだ。
ひとつは家族のこと、もうひとつは、彼女を失った直後の丸一年。
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