第1章

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「あなたは人ですか」 丸椅子に腰掛けた若い男性にそう問い掛けると、男性は僕を見た。 「どういう意味です」 その答えを聞いて、僕は頷く。 正常の【人間】であれば、今の質問に答える引き出しはひとつしかない。それは肯定であり、今の質問に対して意味を聞き返すという引き出しは、持っていないのだ。 もしくは僕と同様、血の通った本物の人であるか。 しかしその可能性は、ほぼないに等しい。 血の通った人間は随分前に、【人間】によって虐殺された。 利己的で愚かしい、雑念まみれの人間よりも、与えられた目的のみを淡々とこなす頭の良い【人間】の方が、よほど役立つのだ。 プログラム上のみの行動しか取らない。それはつまり、世界の安泰が約束されたも同然だった。 そこで浮上して来る疑問は、人間の虐殺を企てたのは誰か。 血の通う人間が低脳だと気付き、それを片端から殺していくことを思い付いたのは外でもない、“有思考者”だ。 そして恐らく、僕の家族もそれによって殺された。 僕を全人類虐殺から救ってくれた彼女もまた“有思考者”であったが、彼女の思考は人間の虐殺にあらず、僕を守ることを優先したのだ。 今僕の目の前にいる男の姿をした【人間】は恐らく“有思考者”であり、きっと、僕よりも遥かに、遥かに頭が良い。 「質問を変えます。あなたは、製造された【人間】ですか」 聞き直すと、男性はぎこちない動きで首を縦に振った。 筐体の故障で、発声以外の全ての動作が思うように行えないのだという。 「はい、そうです。型番はkvm-99358、稼働期間は5年目になります」 肯定した。 自らを製造された【人間】だと認識出来るのは、“有思考者”の特徴である。
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