第1章

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本日の廃棄分別対象者は11体、うちの6体が、廃棄処分となった。 情報処理に必要な中枢部が大きく損傷している物や、原因不明の物など、改善の見込みがさっぱり見られない物は即刻廃棄。 それをこの手で分解し、必要なパーツのみを抽出すると、残った物体は別の筐体やその他建設へと生まれ変わる。 少なくとも人の形をしたそれを叩き壊した僕はその左手を広げ、じっと見つめた。 今日、久しぶりに“有思考者”と言葉を交わした。 あの男性の思考回路が先を見過ぎているのか、僕からしたら彼の言っている言葉は支離滅裂で、理解不能だ。 育成プロジェクトの存在は、さすがに知っていた。 製造された【人間】は、あらかじめ決められたその筐体でのみ作動することができ、その体はいくら日数を経ても決して成長しない。 それを空しいと感じたどこかの“有思考者”が、そんな人間紛いのことをしているのだ。 今日会った“有思考者”の彼は、僕がそのプロジェクトの対象に当てはまるのだと、そう示唆しているようだった。 記憶の継承が上手くされずに、成長プロジェクトに参加していること自体を、僕は忘れてしまっている。 僕は、【人間】による人間の大量虐殺の生き残りではなくて、単なる製造された【人間】。 その事実を認識していない、つまりは“有思考者”でも何でもない、ただの機械。 「ワタシが動かなくなっても、必ず生き延びて下さいね。約束ですよ」 “有思考者”であった彼女の声が、鮮明に脳内再生される。 あの約束を、僕は今まで、果たせているものだと思っていた。そう信じて疑わなかった。だって僕は生きているから。生き延びているから。 人間として。【人間】として?
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