第1章

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「Siriに質問をしていたの。これは本の形をしたタブレット。しおりは音声入力マイクよ。いま、見た目をアナログっぽくした新製品のモニターをやっているの」 はぁ、と僕は生返事を返す。ぼそぼそと呟いていた彼女に、何をしているのかと質問したらこの返答だった。 まったくの予想外。 「あ! その椿には触らないで」 彼女が声をあげる。びくりとして、僕はちゃぶ台の上にある椿から手を引いた。 「それ、ルーターだから。インテリアとしても使えるお花型ルーター。お正月版」 「じゃあ、そこの湯呑みもひょっとして?」 彼女の前に湯呑みがひとつある。これも、ただの湯呑みに見せて、きっと違うのだ。 僕だって学習する。 しかし。 「は?」 彼女は阿呆でも見るように冷たい目で僕を見た。 「これはただのお茶よ。それ以外の何に見えるの?」 それきりで僕は黙らざるを得なかった。 彼女もそれきりでタブレットいじりに戻っていく。 とても腑に落ちない冬の夜だった。
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