序章

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三間坂琴葉は、この私立高校の一年生だ。 目鼻立ちのくっきりとした顔立ちと、滑舌のはっきりした声の出し方が、彼女の気の強さをよく表している。 そんな琴葉と同じクラスで、毎日の同じ重箱弁当からおかずを取り分けることになっているのが橋田陸奥。 ひょろりと背が高いが、針のように痩せていて、どこか頼りない印象を抱かせる。 黒い髪はもっさりと量が多く、両目を隠すほどの長髪。 その上、 「あーあ、言い返しもしねーの」 「相変わらず情けねーやつ」 「仕方ないよ。体が弱くて、受験を一年見送ったくらいの子だもん」 陸奥の年は、本当は皆より一歳上なのに、クラスメートにまで同情されるほど気が弱い。 だからこれまで、陸奥の争いごとはもちろん、大声を出す姿も見た者はいない。 琴葉に、 「いい陸奥。わかったらサラダパンといちごシューを買ってきてちょうだい。私はそれが食べたいの」 命じられて、その場にいた誰もが、陸奥がすぐに立ちあがるものだと思った。 しかし、陸奥はおずおずと口を開くと、 「でも琴葉さん。購買にいちごシューなんてのは――」 『売っていない』 と続けたかったのだろう陸奥に、琴葉の怒鳴り声がかぶさった。 「だったら外のコンビニまで走るのです。それぐらい指示されなくとも、察しなさい!」
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