愛し背の君

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「白紙の本に挟まれる栞ほど、無意味なものはないと思わない?」 「せっかく仕立てられたのにお披露目されない振袖もなかなかのもんだと思いますけど」 「いいのよ。もう役目は終わったわ」 「いや終わってませんて」 「わたくしが見せたかったのはあなたにだけだもの。だからこの振袖の役目はおしまい」 「……。そんなこと言って、年始の挨拶から逃げようとしても無駄ですよ」 「あら、だめ? わたくしのかわいらしさに免じて見逃してはくれない?」 「あざといけど効果抜群な上目遣いしてもダメです。俺がどやされるんで」 「だって、挨拶にかこつけた縁談なのよ? わたくしを想うなら尊い犠牲になってちょうだい」 「貴女がこの家の一員である限り、それも責務と割り切ってください。……いつか攫ってあげますから、それまで待っててくださいよ、『お嬢さま』」 「できるだけ早くお願いね、『いとしいひと』」
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