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「胡桃沢様。そこはハムレット王子とおっしゃっていただきたいところです」
「どうせみんなフランス人なんでしょう。いいじゃない」
「いいえ、胡桃沢様。今、名前をあげられた方のなかにフランス人はひとりもおりません」
「知らないわ。そんなこと、ここには書いてないもの」
「それはそうでしょう。胡桃沢様が手にされているのはワンピースの第一巻ですから」
「もうわかったわ。今日はわたしの負け」
「ありがとうございます、胡桃沢様。それではさっそく──」
「とにかく入って。人に見られたくないの。お布団はそこに敷いてあるから」
「いいえ。超いいえ。もう全然ノーにございます、胡桃沢様」
「先にシャワー、いい?」
「上目づかいもしな垂れかかってくるのもおやめください。お財嚢はどこですか、胡桃沢様」
「いきなりヒモ?」
「ヒモで結構。ゴキでもカビでもマゾでも大いに結構でございます、胡桃沢様」
「レンジフードが抜けてるわ」
「うるさい! 胡桃沢様!」
「なにちょっと、倦怠期飛び越えてDV? パワハラ? 陵辱プレイ♪」
「♪ってなんだ! 最後だけおかしいだろ、胡桃沢様!」
「ごめんなさい。道具を用意してないの」
「胡桃沢バルス! いいか、よく聞けメス豚胡桃沢様!」
「はい♪」
「本日、今この瞬間までの宿泊料! 飲食およびルームサービスおよびその他諸々のサービス料、プラス消費税! ならびに私ことヨハン・チキスチャン・トキオへの心づけ! 〆て十七万二千八百円! ものいうなら胡桃沢様、そいつを全部払ってからにしろ!」
「あ……」
「『あ……』じゃない、払え! 胡桃沢!」
「敬称略?」
「様!」
「ねえ見て。雪よ」
「それがどうした、胡桃沢! 様! 様! 様!」
「うん。なんかわたしのお財布の中身みたいだなって」
- 諒 -
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