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※Aスタートで常にA(♀)→B(♂)の進行。
「いいかげん、諦めて帰ったらどう?」
「胡桃沢(くるみざわ)様、そういうわけには」
「わたしにはとっても大切な人がいるの」
「存じております。胡桃沢様」
「ではお引き取りを」
「胡桃沢様、それは無理でございます」
「これ以上わたしを罪な気分にさせないで──って、昨日もそういわなかったかしら」
「ええ。おとといもその前も伺っております。おかげ様で今日は耳のタコにいよいよ吸盤ができてきました。胡桃沢様」
「すっごく、つまらないわ」
「これは失礼しました。胡桃沢様」
「ねえ聞いて。腕ずく力ずくが嫌いじゃない女もたしかにいるわ。もしかしたらわたしもそのタイプかもしれない。でもあなたの場合はそうじゃないの。もう頑固でウザしつこいだけ」
「私(わたくし)めは油汚れでございますか。胡桃沢様」
「ううん、どちらかといえばそうね……お風呂のカビかしら──なんていったら、クラドスポリウムに失礼ね。油汚れでいいわ」
「どうおっしゃってくれても構いません。菌でもウイルスでもフッ素加工のされていないレンジフードでもなんでも好きに呼んでください。胡桃沢様」
「やだ、あなたマゾなの?」
「胡桃沢様。ここで性癖についてあれこれいうのはやめておきましょう」
「それじゃあ話すことがなにもないじゃない。帰って」
「胡桃沢様」
「なによ」
「このままでは帰れません。胡桃沢様、どうかご斟酌を」
「しつこいわね。あなたゴキちゃん?」
「はい、胡桃沢様」
「マゾのゴキちゃんなんてぞっとしないわ……でも、ちょっと珍しいかも。スベスベしてるけどカサコソする奴隷、どう思う?」
「どうも思いません。胡桃沢様」
「そう。ああ、なんだかわたし疲れたみたい。続きは明日にしましょ」
「胡桃沢様。あなたに明日はありません」
「もう、怖いこといわないで」
「私も胡桃沢様の脳みそが怖いです」
「おあいこね。うふふ」
「胡桃沢様、なにがそんなにおかしいのでしょう」
「うひひ、あひゃひゃ、がはははは」
「胡桃沢様」
「人は微笑みながら悪人になることができるの」
「なんですかそれは。胡桃沢様」
「ニーチェよ」
「シェイクスピアです。胡桃沢様」
「知ってるなら聞かないで、ロミオ」
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