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サマールはラングドシャーに浮かぶオアシスの一つである。――そうウダカは教えられてきた。
ラングドシャーは広大な砂漠であり、空と同様にこの世界の全てだ。海と呼ぶこともある。
サマールには二十三人が住んでいるが、若者はウダカを含めて二人しかいない。同じ毎日を繰り返し、ひっそりと滅びへ向かうだけの集落。
そんなサマールへ、五人の旅人が訪れた。
その日から、何かの歯車が狂った。
◆◇◆
ウダカは興奮を隠せない様子で、サマールにいるもう一人の若者――カウラヴァへ話しかけた。
カウラヴァは古の王家の末裔だ。王が何かは知らないが、敬うべきとだけは知っていた。
「カウラヴァ様、本当にサマールの外にもオアシスがあったんですね」
彼の視線の先には、見慣れぬ服装を纏った旅人たちの姿が。
ヤシの木には二人を隠すのに十分な大きさがあった。二人はそこから来訪者を盗み見ているのだ。
「当然じゃない。あんたはアーカーシャ様の仰る事を嘘だと思っていたの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
口ごもるウダカを見てカウラヴァは笑った。からかわれていたと気付いたウダカは、「笑わないで下さい」と控えめに抗議をした。
「しっ! 静かに」
旅人たちは長老のアーカーシャと話をしている。内容は聞き取れないが、友好的な雰囲気なのは分かった。
ふと、旅人たちの中でも比較的若い男がこちらを見た。
「あ、目があった。逃げるわよ」
「はい」
二人は至極真剣に、側からは滑稽にその場を離れた。
半刻程で話はまとまったようで、アーカーシャは広間へ人を集めて旅人たちを紹介した。長老曰く、彼らはしばらくはサマールに滞在するのだという。
「もう何十年ぶりの客人じゃ、くれぐれも礼を失さぬようにな。特にカウラヴァ!」
「わ、分かってるわ!」
「そうか、ならば行動で示すのじゃな」
ウダカはそっと旅人たちを観察する。
全身を覆う真っ白な布は見た事もない。僅かに見える身体は鍛え抜かれていて、ウダカは自分のひ弱さが恥ずかしくなった。また、全員腰から棒状のものを吊り下げている。脇に置いているのは彼らの荷物だろう、積み上がる様はまるで山のようだ。
「えー、紹介に預かりましたタリム・グラです。私どもはオアシスを渡り歩き行商をしています。グラ行商隊ですね。今は商品がありませんので、宿代の代わりに外の話をお伝え致します。聞きたい方は後ほどという事で」
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