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脳みその浅いところにあって、すぐ取り出して懐古する思い出の一つが、初めて好きな人と出かけた中学生の夏休みだ。 私の母親は男女の交流に殊に厳しく、勿論男の子と二人で遊びに出ることも禁じられていた。母親は怖かったが、想いを寄せていた人からの誘いも断ることはできない。結果、人の目を忍んで会うことになった。母親には一番仲の良い女友達と遊ぶと告げ、その友達にも口裏を合わせてくれるよう頼み、待ち合わせ場所の公園へと足早にむかう。彼は何も気にすることなく立っていて、常に周りに目を配る私に戸惑いながらも面白そうに見ていた。 手をつなぐことも、目を合わせることもなかった。ただ川沿いを歩き、その間私は彼の息遣いを懸命に聞き取っていた。人生最初のデートは、長年連れ添った円満な老夫婦がするような内容となった。 進学と共に彼とは疎遠になり、自然に関係が無くなる結果となったが、それでも想い合った記憶自体が、今でも愛おしい。
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