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目蓋を持ち上げて、上体をゆっくりと起こす。 朝から、妙なことを思い出してしまった。 昔の出来事は、必然的に良い思い出だけが残る。というより、わりと脳みその浅い位置にしまってあるので、すぐに取り出して懐古することができる。 逆によろしくない記憶、自分にとって不都合で不愉快な思い出は、まとめて圧縮機にかけられ、密封され隅に追いやられて、中々手が届かない位置にあるわけで、それに手を伸ばそうとしない限り、おのずとよみがえる事はほとんど無い。 じゃあこの記憶はなんだ。とても昔の、なんでも無い夏休みのほんの一部。胸がざわつくから思い出さないよう心がけているのに、定期的に私の脳内を所在無さげにうろついている。 立ち上がって、側に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルのフタを開け、口内へ流し込んだ。かぷかぷと生ぬるい水が喉を流れていく。口内はざらついていた。
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