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大学生になって3年の歳月が経ち、今しばらく来まいと思っていた卒業は、確実に近づいていた。入学当時は砂埃だらけの駐輪場だった場所には大学が管理する美術館が建ち、それに伴って砂利だった地面は綺麗なタイル張りとなった。
「あのテーマでよかったかな、卒論」
「まだ言ってるの」
演習室を出てからここまで、何度も同じ問いを投げられ、私はいい加減飽き飽きしていた。私のゼミでは毎年、メンバー全員で一つの卒業論文を制作する。一つ上の先輩がしていたように、学期の初回授業はテーマを決めるところから始まった。
「日本の経済格差について一説たてて、日米の富裕層の資産相続傾向の相違点を使って検証。まあ形にはなってるじゃん」
大学構内のメインストリートとなっている道をゆっくり歩きながら、私は数分前と同じ回答をした。良いかどうかなんて、先見性がない私には判断できないが、漢字を多用しているだけで十分それっぽいと思えた。私の方を少し見やって、隣のアキは顎を引いた。
「でもさあ、みんな反応薄かったよ?先生は例年通りいいのが出来そうって言ってくれたけど…」
カナチだってほとんど上の空だったでしょ、と私を見ずに言う。結局アキはそこが言いたかったんだろう。
「ごめんね、でも話はちゃんと聞いてたよ。みんなも多分何も文句が無かったんだと思う。」
卒論のテーマ決めは、これも例年通りであるが、なかなか進まなかった。
ゼミの時間、MCのようなものを担当するのは大体アキか私だ。立って雑談をしていたら始業のチャイムが鳴り、面倒なのでそのまま私が仕切ったり、アキと同時に教室に入った時にじゃんけんで決める事もある。他のみんなも、大いにやりたくない訳ではないようではあるが。それが今日はたまたまアキだった。
「次はカナチが司会だからね、絶対」
「はいはい」
卒論のテーマについては、決定を下したアキもなんだかんだ自信があるようで、それ以降何も言わなかった。
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