正月の珍客

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 今となっては、除夜の鐘つきは大晦日には欠かすことのできない風物詩である。除夜の鐘が終わったのは年が明けてから少し経った頃のこと。聞こえていた鐘の音が遠ざかっていくのを、Y氏は余韻に浸りながら聞いていた。  小うるさい年末の特番に飽き飽きして、一人酒を楽しんでいた。このまま、朝まで飲むか、それともコタツでこのまま寝てしまおうか。酔いがほどよく回った頭でそんなことを考えていた。いつ寝てしまってもおかしくはなかった。  ウトウトと身体を前後に揺らしていると、トントン。玄関の戸を叩く音に顔を上げた。  こんな時間に誰だろうか。Y氏の友人は全員、初詣に行っているはず。それとも、誰かが初詣の土産でも持ってきてくれたのだろうか。 「今、開けますよ」  Y氏はそう言ってコタツから出ると、玄関を開けた。 「あけましておめでとう!」  玄関前にいたのは見知らぬ老人だった。寒空の下、着物一枚だけを着た寒そうな老人がそこにいた。手には何故か、鯛を持っていた。 「あけましておめでとうございます」  Y氏はつられて頭を下げてしまった。すると、老人が、「ちょっと、失礼するよ」と言って、勝手に部屋に上がり込んだではないか。それも、一人ではない。烏帽子を被った老人、大きな袋を担いだ老人、丸坊主の老人、それに小太りの男が続け様に上がってくる。 「ちょっと!何ですか!」  人に断りもなく押しかけてくる彼らにY氏が強い口調で注意するも、 「何か文句でもあるのか?」  老人達に続いて入ってきた鎧甲を着込んだ怖い顔の男に睨まれる。睨まれたY氏は思わず身がすくんでしまう。新手の強盗だろうか。老人達は勝手に、冷蔵庫にしまっておいた朝に食べるつもりでいたおせちや酒を勝手に持ち出して酒盛りを始めた。なんという自分勝手な連中だろうか。しかし、注意をしようにも睨み付ける怖い男を目の前にすると、何も言い出せない。
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