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俺は、しっかりと男の手を握って走りながら、頭の隅で「挙式の途中で花嫁を攫うなんて古い映画があったよな」なんて考えていた。
しかし、そうこうしているうちに、いつの間にか手を引いていたはずの俺の方が追い抜かれ、先導されるように走っていた。
「って、お前、足速いな」
突っ込まれていたとはいえ、コイツは男なのだ。
男だから、線が細くて色が白くて髪や目の色素が薄くてなんだかいい匂いがしてても、背丈は俺とほとんど変わらないし、足も速い。
陸上でもやってたんじゃないだろうか。走ることに慣れている。
「ねぇ、アンタ、名前は?」
「相川だけど」
「俺、鬼淵。相川サン、ちょっと時間もらっていい?」
名前もずいぶん雄々しい。
こちらは久しぶりのランニングだってのに、軽々と話してくれる。
地下鉄駅の構内の改札を出て、鬼淵は俺を小さなブースに押し込むと、自分はその膝に乗ってくる。
外界と簡素なカーテンだけで仕切られた空間、スピード証明写真のブースの中だ。
――ここですんの?
問いかける前に、唇が合わさった。
性急な求めは、決して一方的な行為ではない。
俺もなりふり構ってられないくらい、満員電車の車内で淫らに喘いでいたこの男がほしいと思っていた。
「も……、入るから……っ。さっきまで沢田さんので拡げてもらってたから……っ。お願い、早く挿れて……っ」
テンションマックスの時に上司の名前を出されて若干萎えたが、間違いなく反骨精神は煽られた。
「課長のじゃ役不足だっつの」
俺は頭の中で「今のセリフはかなりおっさんくさいだろ」と自分でダメ出ししながら、促されるままに、その場所へ思い切り自身を突き立てた。
「ひぃっ、んぁっ!」
鬼淵の身体が弓なりにしなる。
いきなり挿れて、しっかり奥まで貫いた。
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