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「いあ、らぁっ! お願……っ、ゆっくり……っ! ゆっくり、し……っ」
舌足らずに叫ぶ鬼淵の口を肩で塞ぎ、何度も突き立てる。
「んぐっ、あっ、うっ」
鬼淵の余裕の欠片もない喘ぎが、俺から嫉妬から発生した被虐心を消し去っていく。
口元からだらしなく唾液が垂れ、涙で蕩けた目尻に胸を掴まれる。
嫌だと身を捩らせながら、その腕は俺の背にしっかり回され、世紀の再会のように固く離さない。
――なんだよコイツ。めちゃくちゃ可愛い。
「ごめん、俺、痛くした? 平気?」
お互い肩で息をしながら、俺は鬼淵の顔を覗き込む。
こんなにがっついたのは十代の頃以来かもしれない。二十代後半の自分が枯れているとは考えたことはないが、今の衝動を思えば、最近の俺は枯れ切っていた。
情熱というものを失っていた。
「うん、平気……。優しいね。相川サン」
ため息混じりに笑みを浮かべる腕の中の男にまた発情する。
「や、今の俺、全然優しくないと思うけど。つか、男同士でやんのってもっと激しくすんのかっ?」
「違う違う。こんなに悦いの初めてだよ。激しくされてんのに、ちゃんと優しくされてるって感じる。すごいね、相川サン」
「……リップ・サービス、じゃないよな?」
「そんな風に聞こえる?」
「聞こえないけど」
鬼淵が「よかった」と屈託なく笑う。身体の体温が一気に上がった。
鬼淵に掴まれていた肩が軋んでいる。今までの相手とは圧倒的に違うことを今、この瞬間も実感して止まない。
ただ、今、胸を突き上げる熱量が、男女の差からきているものではないことだけは分かる。
――ヤバイ。俺、コイツのことが好きだ。
「もうしないの?」
あけすけに言うのは、快感に貪欲な男の特性なのか、繋いだ内面からキュッと締め付けられる。
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