第一章

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 そして椿が今待っている相手。  志岐天音(しきあまね)はこの事務所で一番売れっ子のAV男優である。主にゲイ向けのAVに出演していて、その中性的な雰囲気、あどけない顔が受けていた。  椿とも面識はある。しかしどちらかと言えば嫌われていて、椿もまた、志岐のことは苦手だと感じていた。 「どうしても俺じゃなきゃダメっすかね」 「社長命令」 「へい」 「だいたい、椿はAmeのファンだろ? だったら志岐のマネージャーなんて嬉しいんじゃないのか?」 「そんな単純な話じゃないんすよ……」 「憧れのアイドルと同じ顔! いいじゃん」 「Ameはアイドルじゃないっすよ!」 「あーはいはい」  Ameというのは、椿が十代の頃に夢中だった歌手である。そのAmeと、志岐の顔が似ているのだ。とはいえ、Ameは引退した時十七、八歳で、今志岐は二十二歳。年齢的にも瓜二つというわけはないのだが。  しかしその大好きな歌手と同じ顔の男がAVに出ているというのは、椿を非常に複雑な気持ちにさせた。  そして椿のAme好きは志岐も知ることで、どうやらそれが気に入らないらしく、元々決して愛想のいい男ではないが、椿には特別無愛想だった。 「おはようございます……」  ぼそりと、小さな声が聞こえた。  その声で椿がドアの方に視線を上げると、志岐天音がこちらを睨むように見ていた。 「おーい、椿。志岐目ぇ悪いだけだからな。今日コンタクトしてねえんだろ。応戦しようとすんな」 「あ、つい」 「ついじゃねぇ、元ヤンキー」 「それ言わないでください」 「志岐―、こっちだ」
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